三章 父の背中

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元々、明智軍の士気は低かった。 なにしろ、あの天下の大大名・織田信長を討とうと言うのであるから、畏れの方が先にたつ。 足軽らはもちろんのこと、一部の重臣を除き、ほとんどの武将が直前まで本能寺攻めを知らされていなかったのだから尚更である。 急な布陣であったため、多少の混乱も見られる。 そしてそれは裏門付近がもっとも激しかった。 「ここはわしの受け持ちぞ。貴殿は左翼にまわられよ」 「何を言うッ。わしは光秀様から直々にこの場所より攻めかかるよう仰せつかったのじゃ」 「ぬしは寝惚けておるのか? たかだか兵十人ほどの大将に、光秀様がお声をおかけくださろうはずがない」 「十五はおるわいッ!」 などと言い争う者もいる。 名のある武将が収めようとするが、なかなか思うようにいかない。 それでも数を頼りに押し寄せてくる明智勢に、数百しかいない本能寺勢はその数をどんどん減らしていった。
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