三章 父の背中

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織田信忠の槍先が弧を描く。 血渋きが舞う。 信忠は顔面に振りかかるそれを拭おうともせず前へ進む。 「信忠様ッ。危のうござりまするッ。お下がり下されッ!」 家臣らの声も今の信忠の耳には届かない。 「(父上…父上ッ)」 兵13000を擁している明智軍だが、本能寺を四方から囲むとなるとどうしても兵力を分散させざるをえない。信忠はその背後から強襲したのであるから、精強で知られている明智軍も、士気の低下している中ではこれを支えきれなかった。 「信忠様をお一人で行かせるなッ」 村井貞勝と織田信房、他数騎が信忠の後を追った。
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