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まだ陽も昇らぬ京の町。甲冑の擦れる音が虫の音のごとく静かに、しかし力強く響いた。闇に溶けこんだ軍勢は碁盤の目を縫うように進軍し、目的地に達すると歩みを止めた。
軍の中ほどに一人の騎馬武者があった。彼の纏う雰囲気と、凛とした目の奥に揺れる炎は並の武将でないことを感じさせる。
彼は腰の刀を抜いており、前方へ突き出した姿勢でその切っ先の向こうを睨んでいた。
彼は胸一杯に明け方の空気を吸い込むと、高らかに叫んだ。
「敵は本能寺にありッ!!」
彼の頭上には桔梗の旗指物。天正十年六月二日のことである。
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