一章 開演

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森蘭丸は目を覚ました。まだ太陽の光は見えず、虫と蛙の鳴き声だけが微かに聞こえた。 歳のころ十八で、花も恥じらうような美少年である。 彼は主君とともに、わずかな手勢を率いて京の本能寺に滞在している。彼の主君はよくこの寺を宿として利用しており、この日も、明日朝廷との会見をひかえているため、ここに宿をとっていた。 「…」 蘭丸は何か違和感を覚えた。 「(虫の声が…いつもと違う…?)」 そっと耳をたててみる。聴こえてくるのは虫の音色だけのように思える。 「…!!」 突然、蘭丸の血相が変わった。 虫の音が鳴り止んだのだ。 蘭丸は飛び起きると、障子を少し開けて外の様子をうかがった。 「(囲まれたッ!?)」 彼が見たものは、本能寺の周りをぐるりと囲む黒い影。それでも彼は冷静に旗指物を確認した。 「(桔梗…ッ!)」 蘭丸の瞳は大きく見開かれ、瞳孔が激しく揺れた。
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