670人が本棚に入れています
本棚に追加
森蘭丸は目を覚ました。まだ太陽の光は見えず、虫と蛙の鳴き声だけが微かに聞こえた。
歳のころ十八で、花も恥じらうような美少年である。
彼は主君とともに、わずかな手勢を率いて京の本能寺に滞在している。彼の主君はよくこの寺を宿として利用しており、この日も、明日朝廷との会見をひかえているため、ここに宿をとっていた。
「…」
蘭丸は何か違和感を覚えた。
「(虫の声が…いつもと違う…?)」
そっと耳をたててみる。聴こえてくるのは虫の音色だけのように思える。
「…!!」
突然、蘭丸の血相が変わった。
虫の音が鳴り止んだのだ。
蘭丸は飛び起きると、障子を少し開けて外の様子をうかがった。
「(囲まれたッ!?)」
彼が見たものは、本能寺の周りをぐるりと囲む黒い影。それでも彼は冷静に旗指物を確認した。
「(桔梗…ッ!)」
蘭丸の瞳は大きく見開かれ、瞳孔が激しく揺れた。
最初のコメントを投稿しよう!