一章 開演

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明智光秀は喉元に刀をつきつけられたような感覚だった。しかし、このまま喉を突かれるわけにはいかない。彼は、天命を果たすための第一歩を踏み出したにすぎないと思っていた。それでいて非常に大きな一歩である。そびえ立つ信長という高い壁を乗り越えて歩んでいかなければならない。主を裏切るにあたって、誠実な光秀が苦悩したのは想像に難くない。 「自分には大きすぎる一歩ではないだろうか…」 何度も何度も自問した。一度踏み出せばもう後には戻れない。理想を達成するか、死ぬか。 そしてついに彼は答えを出した。 「自身の理想を押し殺し、ただ主君の駒として動かされているだけでは死んでいるも同じ」 彼を動かしたのは正義感と責任感と使命感であった。
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