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「失礼します。」
そう言って入室した彼女は、少年と同じような格好をした、これまた怪しげな少女。
「噂には聞いているかな。彼女…紅緋女の話は。」
「ええ。カノンさんのとこの一番だと伺っております。お会いできて光栄です。」
紅緋女(べにひめ)と呼ばれた彼女に、少年はお世辞ではない純粋な敬意を表した。
そう、光栄ね。と温度は感じられないが嫌味の無い言葉で彼女はそれに応える。
「それじゃあ二人とも揃ったことだし今回の説明も兼ねて、両名任務更新といこうかな。」
どちらも自己紹介はいらないだろうしね、と付け加えて淡々と男性は進めていく。
ーーーーーーそこから数十分後。
「では、『白銀』は往年通りに。発動タイミングは君に任せるし、失敗はしないこと。
『紅緋女』はミナヅキを使用して自己判断の下、当人との接触を試みること。
両名共に"覚醒"を視野に。あと、対象から何か得たことがあれば僕に直接お願い。…両者とも引き受けてくれるかな?」
二人の息がぴったりと合う。
「「はい。」」
「よし、じゃあ解散。」
この言葉を聞き、失礼しました、と背後の出口に踵を返す二人の若者。
"白銀"と呼ばれた、褐色の肌に跳び跳ねた銀髪、そして力の宿した紅の瞳を持った少年と
"紅緋女"と呼ばれた、透き通る白い肌に腰まで伸びた艶やかな黒髪、全てを惹き付ける金色の瞳を持った少女
二人共に黒いフード付きのローブで身を包んでいる
そんな怪しくもあどけなさの残る両名に任を与えた男性は物思いに耽ていた。
「それにしても、遂に…かな。二人には『覚醒』を視野にって言ったけど、あのマナの波長だと…ほぼ間違いないだろうね。」
窓は数ヶ所あるが、照明は間接照明で薄暗く殺風景極まりない部屋
しかし、20坪は優にあるその部屋には、裁判所に置かれるような堅牢な作りの机がポツリ
男はその机と同じようなデザインの背もたれ付きの椅子に、深く腰掛けた。
そして、祈るかの様に呟いた。
「……どんな手を使ってでも、君を……。」
咲き乱れる桜は
風に揺られて
散っていく 。
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