主人公と転校生

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道路の道幅に応じる形で歩道にもかなりのゆとりがある。 しかし、その歩道の幅に反して町の発展は未成熟であり、行き交う人々も都心部と比べるとかなり少ない。 決して贅沢を出来るわけでは無いが、多くを望まなければとても住みやすい。 素直に良い町だと思う。 そして、なんといっても歩道と道路に一つの線を引くかのように、道沿いには桜が満開だ。 風景に感心が無い自分でさえ、この量の桜には圧倒される。 桜はこの町の風物詩であり、この時期になるとこうやって道中を彩ってくれる。 そこが通学路線の終点であるこの町の、数少ない魅力の一つである。 桜に背を押されるような確かな足取りで、坂の一番下の駅「コハル」に到着した。 * コハルは無人の駅で駅構内は全て木造で作られており、ヒト30人集まれるくらいの広さはある。 また、外装内装共に年期の入った雰囲気のある駅で、都心部のコンクリートできっちりと区画された駅とはまた別の趣を醸し出している。 現在時刻は7:30。絶好の出勤時刻である筈なのだが、駅の利用者は10に満たない。 これがコハル駅の朝の風景である。 使い古された券売機で切符を購入して、ミスマッチな自動改札機にそれを投入した。 改札口を抜けると、コンクリートで舗装された50m程のホームと、先程送り出してくれた桜が景色一面で再度出迎えてくれる。 「……………」 見慣れた為か日常風景となってしまった町の桜ではあるが、見るたびに何かが浄化されて行くような心持ちになる。 そんなホームで待つこと数分、自動改札機と同様にこれまた景色に似合わない近未来的な風貌の電車が到着した。 小気味よい音と、電子アナウンスを鳴らしながら搭乗を促すこの電車に、今日もまた足を借りる。
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