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「や、やめろ!足をどけろ!」
力はない有明だが、不安定な状態で背中に体重をかけられれば身動きが取れない。
それほどにこの高さは恐ろしい。
「て、てめえ!あ、頭おかしいんじゃねーのか?!」
取り巻き達も、「そうだ」「ふざけんな」と戸惑いながらも声を上げる。
「何言ってんの?こんなんで落ちるわけないよ」
それでも有明の表情ははじめからひとつも変わらずに、さらにぐっと足に体重を乗せた。
――どうかしている・・・。
この場にいた誰もが――加津佐までもがそう思った。
「テメェあんまナメてっと・・・」
「おい!やめろ!!あいつヤベーって!」
「マジで殺りかねないんじゃねえ?」
取り巻きが戸惑いだす。
「わ、わかった・・・!」
みっともなくひっくり返った声を出したのはボスだった。
取り巻きもその声に静まる。
「俺が悪かった・・・!もうお前には手は出さねえ・・・だ、だからっ・・・」
「・・・・・・」
プライドを捨てた懇願にも、有明は全く表情を変えない。
(なんつー冷徹な奴・・・)
悪者はアイツなんじゃないかと言う気にさせられる。
『アレ』が本当に同じクラスの『有明』なのだろうか。
「おいっ・・・!た、たの・・・」
「ねえ」
足で踏みつけたままボスの顔を覗き込む。
「足をどけてもいいけどさ、まずはこの取り巻き軍団下げてくれる?
足どけた瞬間襲われたらたまんないからさ」
その可能性はないとは言えない。
しかし誰がこんなヤバイ奴を相手にしようと思うだろうか。
「わっ、わかった!おいお前ら!」
はじめは拒んでいた取り巻き達だったがこのままでは埒が明かない、とボスを心配しながらも屋上から出て行く。
全員が出たことを確認すると、しばらく待ってからようやく有明の足がどけられた。
遠目からでもボスの足がガクガク震えているのがわかる。
「高所恐怖症だった?」
心配する気もないくせにあざ笑うように有明が言うが、ボスは横目で睨み付けるだけで必死に震える足に力を入れて立ち上がり、逃げるように屋上から出て行った。
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