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照子には両親がいなかった。存在すら知らなかった。身内はマツとハルだけだった。 毎日マツとハルを散歩させ、暗くなりはじめたら家に帰る…それの繰り返しだった。 そんな日々だった。 ボーンボーン…‥ 6時を知らせる鐘が鳴る。 もうすぐ暗くなる‥。 いつもは鐘が鳴るころには帰っていた。しかし、今日は何故か足が動かなかった。 にげだせないニゲダセナイ逃げ出せない‥…‥ そんな言葉がふと脳裏をよぎった。 夜は毎日くる。真夏の暑い日も雪のふる寒い日も…。 地球が傾き、自転し、太陽の周りを公転している限り、春夏秋冬、朝昼晩、 それぞれの、その時からは逃げ出せなかったんだ。 照子は気づいていなかった。 自分はわがままで、嫌なことからすぐ逃げる。 逃げることばかり考えて、なにをしたらいいのか分からなくなっている。 分かろうとする感情さえだすことが出来ない…‥。 照子の心は真っ白だった。 照子は暗闇にのまれながら、うずくまっていた。 ‥泣くことはできなかった。
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