第一章

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平和な田舎町、辺りは森林と草原と畑。そして、ぽつんぽつんと民家が並ぶ。 そんなのどかな風景におおよそ不釣り合いな怒号が鳴り響いた。 「ちょっと!さぼってないで働きなさい!忙しい時に何やってるかと思ったら!」 うるせぇなぁ… あー… また、あの夢だ。 兄ちゃんが出ていく時の夢。 見るたびに後悔する。 なんで止められなかったんだ、と。 「ちょっと!!聞いてるの!!?」 「だーーっ!うるっせえなあ!!あ…」 考え事を中断され思わず怒鳴ってしまった。 唯一頭の上がらない姉に… 「だれに向かって…口聞いてんの!!」 当然姉、なつみからは再び怒鳴られる。 なつ姉に生意気な口聞くのは絶対NGだ。 口答えでもしよう物ならそのあと、一時間強は小言とお説教が続く。 「いい加減にしないと叩き落とすわよ!」 今俺の座っている枝は地面からは結構高さがある。 落ちたら死にはしないものの、無事ではすまない。 「ご、ごめん!!降りる!降りるから!」 自分でも情けないと思うが、なつ姉には一生かかっても返しきれないほどの恩がある。 両親を早くに亡くし、大黒柱だった兄ちゃんが出ていったあと、なつ姉がまだ小さい体でそれこそ死ぬ思いで俺たちを育てて来たのだ。俺とあともう一人の妹を。
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