─双極─

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「それはちょっと、答えられないです……」  その答えに、俺は笑って返した。 「そっか……いや、俺が悪かった。それともう一つ良いか?」 「は、はいですっ。次は頑張ります!」  スイちゃんが答えてくれようと張り切る。なんだか、悪い事をしてる気分になった。 「えっと……ここの時代に来たのに、目的とかあるのか?」 「あ、それは無いですよー。言ってみればスイ達は〝逃げて〟来ただけですから」  ……何から? ……ってのは、多分ダメな範囲だろうな。 「けど……レイ兄ぃなんでそんな事聞いたんですか?」 「んー? ……あー、なんつーか」  首を傾げるスイちゃんに、俺は少し照れ笑いしながら、 「もし目的があるならさ、それが終わったらお前ら居なくなるのかと思ってな。少し気になったんだよ」 「……ふふ。大丈夫ですよレイ兄ぃ! スイ達はずーっとここに居ますからっ!」 「ははっ。そっか、安心した」  ……言葉の裏で、思考が止まる。いや、切り替わる。  気付いた。  俺は、何を聞いてんだろう。  安心……出来る? 誰が? 俺がか?  居なくなるのかと、そう思った。  思ったから、聞いた。心配になったから。  スイちゃん達は、違う時代の人だから。  ここじゃない、違う場所の人間だから。 「……レイ兄ぃ?」  ここじゃない場所の人間なら、 「っ……ああ、悪い。行こう」  いずれ帰るのかと思ったから。 「わ、わわっ。レイ兄ぃっ? そんな引っ張らなくても」  ここじゃない場所に。  ──分かってた……筈だ。  そんなの、  ここへ来ると、決めた時には。 (いつか、俺は──)  帰る場所があるのは。  ここじゃない場所から来たのは、  俺も、同じなのに──
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