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あたりはもうすっかり暗くなっていた。
遠くに見える橋の上で車のライトが無数に光っているのがぼんやりとぼやけて見える。
雨水が地面にたどり着くたびに不規則な音が鳴り響いていて、その音が周りの車のエンジン音やら電車の音なんかの雑音をかき消していた。
俺は橋の下にいた。
どことも知らない川にある橋の下に。
俺は突っ立っていた。
誰にも知られることがないだろうその橋の下で。
俺は彼女に出会った。
暗闇の中でその存在をぼんやりと露にしている白くて長い髪。
その髪は彼女の腰辺りまで伸びていて時々風に揺られてきれいになびいていた。
膝くらいまであるブーツに身体のほとんどを覆うコート、その下からはちらちらとスカートが見え隠れしている。
彼女の両目は半開きになっているもののこちらをしっかりと見ていた。
「助けて……」
雨音の雑音の中、彼女の声は弱弱しく俺に助けを求める。
俺が彼女の元へと歩み寄ろうとしたその時向こうの橋を電車が通り、その光で彼女の姿がはっきりと俺の目に映った。
歩み寄ろうとしていた俺の足がピクリとその動きを止める。
それは恐怖によるものなのか……。
ただ、その光景は俺が今までの人生の中で決して見ることがなかっただろう光景だった。
返り血と言ってもいいほどに彼女の身体には右頬からブーツの辺りまで血で赤く染まっていたのだったから……。
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