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「大丈夫?」
小さくて可愛いらしい口が動いた。
彼女の第一声は僕の事を心配してくれたもので少し社交辞令の感が否めなかったところもあったが僕は単純に嬉しくて。
少しだけ緊張がほぐれた。
我ながら現金なものだと思う。
「う、うん」
大丈夫ともありがとうとも言えなかった。
たったそれだけのことなのに、たったそれだけのことも言えない自分がひどくバカみたいだった。
「………………」
「………………」
彼女は真っ直ぐ立ったまま動くことなく口を開かない。
僕もまた、それ以上の言葉を思いつけずにだんまりを決めている。
何か喋らないと……。
わけもなく焦ってしまう。
「ど、どうして久遠さんが……?」
良かったのか? 今の台詞は良かったのか? いいよね、別にどこもおかしいとこなかったよね!?
焦る必要もないのに焦ってしまい、どもる必要もないのにどもってしまった。
……恥ずかしい。
そんなことを考えながらなんとか彼女の顔を見つめ返す。
彼女はよく通る声で一言。
「高志君」
「へっ?」
思わず聞き返す。
「高志君が見舞いに行ってみたら? って」
彼女は腕を組む。
高志?
「喜ぶと思う、って言ってたけど」
………………なんて言えばいいんだろうな。
彼女が見舞いに来てくれたのは嬉しい。この際理由なんてどうでもいい、嬉しいもんは嬉しいんだから仕方ない。
けど落胆してる僕もいる。彼女が自分の意思ではなく、高志君というデブにそそのかされてここにやってきたということに対して。
いや、どんな理由があれ彼女がここに来たことは変わらない、むしろ高志が気を利かせてくれなければ決して彼女は保健室を訪れなかっただろう。その点に関しては高志に感謝してるといえなくもない。
だが、彼女は僕のためにわざわざ授業中に足を運んで来たわけじゃない。高志に言われたから来ただけだ。
余計なことをしてくれた、とも思う。
……考えがまとまらない。
「ねぇ」
ふいに彼女が声をかけてきた。
僕はいつの間にか自分でも嫌になるくらい落ち着いていて、冷静に、動揺することなく彼女を見つめていた。
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