いち

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久遠 宮 それが彼女の名前だった。 昼休み、結局何も借りぬまま図書室から教室に戻った僕は、教壇の上にいつも紙切れのように置いてあるクラスの見取り図のようなものを手に取り、彼女がいつも座っている席の名を見てその名を知った。 久遠 宮。 なかなか目立つ名前だった。 意外だった。 ……くどう、って読むのか? それともくおん、って読むのか? ここは名字だからやっぱりくどう、でいいのかもな。 それだけ確認すると用が終わった僕は中庭に出る。付き合いの悪い友人達がそこでほうけているのをすぐに見つけた。 だらけきった集団に声をかけながら近付く。 「ねえ、君ら久遠さんって人知ってる?」 「知ってるよー」 知ってた。 クラスメイトの顔と名前くらいはちゃんと把握しているらしい。意外だった。 僕は彼女を知ってる人間が他にいたことがとにかく意外で、なんとなくムッとしながら丸々と太った友人高志の隣に座った。 高志はデブのくせに俊敏で運動ができる。どのくらいかといえば人並みの体力も無い僕よりはずっと体力がある。 以前体育でたらたら動いてばてていた僕を置いてダムダム走っていた。だむだむ。バスケの時間だった。 自分より明らかに体力が劣ってそうなぷよぷよと脂肪を振るわせる高志に、その時確か聞いた気がする。 太ってんのになんで動き回れるの? あの時僕はイライラしてたのか、物凄く失礼なことを言った気がする。気がする、けど昔のことだから気にしない。 高志は確か、中学でバスケ部に入っていた、と言ってた気がする。 ぷよぷよな体でだむだむとバスケ。 ぷよぷよ、だむだむ……。 「久遠さんがどうかしたの?」 思考にふけってしまっていた僕に高志が話しかける。……なんてアホな想像してたんだろうか。 「いや、別にどうってわけじゃないんだけど」 「惚れた?」 「変わった名前だなーって思って」 どこをどうしたらそうなるんだ、と思う。 「変わってるといえばまあ、そうだよね。中学の頃からそう言われてたし」 ……なんで? 「なんで中学の頃から?」 彼女を知ってるんだ?
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