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「だから、もういいんだよ」
その言葉に唇が震えた。
「知らぬ、くせに……」
少女の腕を掴む。引き離さなければと心が思う。
望んできたのは赦されることではない。
望んできたのは己の不幸とこの世界からの開放。
その、筈だというのに。
“もう、いいよ”
この一言にみっともないほど揺さぶられてしまった。
最も聞きたくなくて、最も欲していた言葉だと思い知らされる。
「ようやく……開放の鍵と出逢えたというのに」
この命に引導を渡してくれる強い存在に、ようやく出逢えたというのに。
掴む手の爪が少女の柔肌に食い込んだ。それはすぐさま赤い線を残していく。少女は俄かに身を強張らせたが、その痛みから逃げることはしなかった。
「何故、殺してくれぬのだ……」
自身で死を選べないが故に他者にこの命を委ねた。殺してくれる存在をずっと探し求めてきた。
「私は……恨まれて、殺されなければならないというのに」
罪を犯しておきながら、安穏とした生活を享受するなど許されない。
恨まれ憎まれ責められてこの世を去るべき人種なのだ。
――そうでなければ、私は私を許せない。
幸せになど、なって良いわけがないのだ。
「……言ったでしょ?」
少女はくすくすと喉を鳴らした。心地好い鳥の囀(サエズ)りのように軽やかな音色。
「もう誰も、死なせない」
その『誰も』に自身も含まれていることに目を開く。幾多の命を踏みつけて生きてきた身さえも、一つの命として扱ってくれることに心臓がきゅう、と痛んだ。
毎夜感じてきた痛みとは似て非なる其れ。
「生きることから、逃げないで。選んで」
生きる資格を持たぬ者に全てを背負って生きろと言う。それは何よりも酷い仕打ちで何よりも酷い復讐。
「飽く迄も生きろと、そう言うのか……」
「うん。生きて。新しい自分を」
それはもう、人を殺めなくともよいということか。己の課した罰から抜け出して、不釣合いな光に苛(サイナ)まれながらも、生きろ、と。
「……それが、罰だというならば……」
「そうじゃない。罰じゃない。誰もあんたに罰は課さない。だから自分で決めるの。これからの生き方全部。……あなたが、責任を負うの」
罰以上に重いことを事も無げに少女は口にした。
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