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「大丈夫。あなたはもう、選んでる」
細い黄色の髪越しに少女の頬が耳に触れる。人は、これほどに温かい。
「美辞麗句ばかり……」
そういう声は自身でも驚くほどに震えていた。引き攣る喉を、息を詰めて遣り過ごそうとして――失敗した。
せりあがる、凍らせた筈の感情の波。もう二度と流すことはないと思っていた透明の雫が目から溢れる。
悲しくも嬉しくも辛くもあったが、長年堰き止められてきた涙が流れ出すことに理由など必要無かった。
「私は……生きても良いのか……」
動き出す、人としての感情。
命あるもの全てが持っているはずの『生きたい』という本能。必死に抗ってきた其れに、今ようやく素直に応じる。
「良いのだろうか……」
死神は眉根を寄せ、きつく目を閉じた。頬を流れる涙が熱い。
「……姉さん……」
脳裏に浮かぶ、たった一人愛した女性。死神の犯した最初の罪。だからこそ起こってしまった二度目の悲劇。
愛する人を守るために実の父を手にかけ、けれども結局この手には何一つ残らなかった。
愛した者さえも喪い、そこでようやく自身の犯した過ちに気付いたが、時は既に遅かった。
――姉は、父は、恨んではいないだろうか。闇を彷徨えと望んではいないだろうか。
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