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「……っ」
少女の腕に縋り付くようにしがみついて声を殺して涙を流す。生まれたばかりの赤子よりも必死に他者を求めて。
「赦すな……赦さないでもらいたい」
涙に濡れた目で見上げた先には、剣士が眉宇を顰めて死神を見つめていた。
そこに不快気な色は無い。寧ろ何かを感じ取ろうとするかのように真摯な眼差しでさえあった。
「……許すわけねェだろ」
ぽつりと答えた剣士の声には怒りも覇気も無い。
「アンタの過去の所業を許せるわけがねェ。一生責め続けてやる」
だから命をまっとうしやがれ、と。そう聞こえた。
許さないと言いながら、許さないことで赦されたのだと死神は込み上げる感謝を唇と共に噛み締めた。
「……この命ある限り、私は贖(アガナ)い続けると誓う」
この先、何度季節が廻り、気の遠くなるような時が過ぎても罪は消えない。決して消えない。だから償い続けるのだ。命が尽きるその時まで。
それは罰ではなく、唯一与えられた生きる許可証なのだと死神は思った。
「奪った命に恥じぬ生き方を、エディの剣士、そなたに見届けて欲しい」
剣士はゆっくりと瞬きをした。
間近に見る少女の瞳もまた、笑んでいた。
今、眩いばかりだった世界の中に居場所を見つけたと、そう思った。
光の中に――居る気がした。
紅の青年が嫉妬紛れに少女を引き剥がしたのは、それからまもなくのことだった。
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