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「罪を贖うことも受け入れることも出来ず、私はただ切々と死を求めていた」
頭領は、やはり自嘲的に鼻を鳴らして、ようやく船員へと目を向けた。
「お前達のことも、道連れの駒だと思っていた」
ざわり、と空気が揺れる。
ランガードは目の前が真っ白になるのを感じた。
「お頭……じゃあ、おれ達は……」
小さな呟きは頭領には届かない。
――おれ達は、死ぬ為に共に居たのか。
それは、なんという裏切り。
同じ釜の飯を食らい、共に同じ日の出を迎え、勝利を分かち合う。
それら全てが、彼にとっては死に向かう為のものでしかなかったというのか。
駒だと、そう言い切られてしまう程度でしかなかったというのか。
もう五年以上共に居て、その程度か。
「だが、死に取り憑かれていた私をこの者たちが救ってくれた」
救ったのは、この船の誰でもなく、立ちはだかっただけの筈の人間。敵でしかなかった者達。
「人を生かす者だけが何かを生めるのだと、ようやく気付いたのだ」
そのような綺麗ごとを、この人の口から聞く日が来るなどとは思ってもいなかった。
誰よりも、闇が似合う人であったというのに。
「今、この時を以って私は死神の名を棄て、シャードという一人の人間として生きていく」
用がなくなれば、いとも簡単に切り捨てられる。自分が救われたからといって、何の相談もなく一人でただの男に戻ろうという。――なんと勝手な。
「もっと早く、こうしていれば良かったのだ。そうすれば私はお前達を……」
仲間と、呼べたかもしれぬ。
ひっそりと噛み締めるように囁かれた言葉にランガードは歯を食いしばった。
十年近くに渡り、一人の男に魅せられて人生の全てを捧げてきたつもりだった。
呼べば良い。これから仲間だと呼べば良いのだ。だというのに、この男は、それを拒む。
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