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「私は船を降り、残る命で贖罪し続ける。船はお前達の好きにするがよい」
そう言って頭領は――否、シャードは背を向けた。
感情が彩る漆黒の瞳の先には、海賊影団から唯一無二の頭領を奪った三人組。
「そなたらには感謝している。これでようやく……私にも明日が訪れる」
こちらの気も知らず、少女は満面の笑みを浮かべた。
「あー、じゃあさ、提案なんだけど」
邪気などまるで無い。腹立たしい程に無垢な存在。
「シャード。一緒に行かない?」
頭を鋼鉄で殴られたような衝撃をその言葉に感じてランガードは目を見開いた。
――おれ達から頭領を奪うだけでは飽き足らず、シャードという男までもを奪うつもりか!
嫉妬なのか嫌悪なのか。
直視もしたくない程の感情が心の内を好き勝手に暴れ回る。
「一緒に、行こうよ。トロルに」
出てきた名前は、つい最近壊滅させたばかりの小さな村。
「ゼルだって、一度戻るでしょ? だから、一緒に」
ゼルと呼ばれた男は面食らったような顔をしていたが、少女の問いに曖昧ながらも頷く。
「つかエナ。オマエ来る気なンかよ」
「うん。そう決めた」
勝手に解散を決めたシャードを、更に勝手な少女が、変化を促し動かしていく。
屈辱以外の何物でもない。
「えー! 野郎と旅なんて許せないー! ジストさんも行くー!」
「マジうぜェな、アンタ」
脳天気な会話が潮風に攫(サラ)われていく。風は留まることなく、そして二度とこの場所に戻ることはない。
その潮風のように少女達は自身が敬愛していた男を攫っていく。何の躊躇いもなく、いとも簡単に。
「ま、シャードも考えたいこと、あるだろうし。あたしも用事、あるから。三日後の正午に港町、ユーノで」
――そして、二度と戻らない。
変化は悲しいほど唐突に訪れ、一度変化が始まってしまえばそれは何者であっても――例え当事者本人であっても止められない。
「……ああ」
聞き慣れた低い声は微かに丸みを帯びていた。昔一度だけ聞いた声が脳裏を掠める。
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