終章

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 「で? 盗まれたってどゆコト? あたしだってジェリーの紹介だったから盗みに入んの諦めてせっせと稼いで来たってのに」  ラファエルを撫でながらエナは話を戻し、中年の男を睨み付けた。  エナの腕の中で誇らしげにジストを見るラファエルに「ちっ。エナちゃんの威を狩るクソ犬め……いつか喰ってやる」とぼやく声が聞こえたが、この場合相手をするだけ疲れるので無視を決め込むことにする――話の上では。  「返答次第じゃ、殴りたくなるかもしんないけど。こんな感じで」  ど派手な色の壁やら装飾品に神経を刺激されつつ、エナは出来るだけ感情的になるのを抑えるように努力をして笑顔を浮かべる、と見せかけてジストの横っ面を殴り飛ばした。  この屋敷、隅から隅まで闘牛も真っ青な原色だらけとなっている。  恋人同士なら喧嘩、商談ならまず間違いなく破談になりそうな、神経を昂ぶらせる為の配色としか思えない。  ジストを殴り飛ばしてしまったのはそのせいだ、とエナは一人納得する。  頬を押さえて呻くジストに同情するような視線を向けた中年男は、明日は我が身と話し始めた。  「それが……昨晩、強盗に押し入られまして……。相手は一人だったのですが、滅法強くて警備員が全員やられちゃいましてね。呆気なく盗まれてしまったのですよ」  言いながら思い出したのか、男は丸い体をぶるぶると震わせた。  達磨(ダルマ)みたいだと思ったが、口にして怒らせても意味が無いので心中でそっと思うだけに留める。  「一人? たった一人で、警備員全員?」  警備員が何人居たのかは知らないが、迷子になれそうな大きな屋敷だ。五人十人の話ではないだろう。それをたった一人で制圧するのは、ゼルやジストならともかく、普通の強盗には余りに荷が重い。  「どんな奴だったの」  男は視線を趣味の悪いゴテゴテと飾り付けられた机の上の灰皿に落として息を吐く。  灰皿にはジストが吸った煙草の吸殻が数本、無造作に放り込まれていた。  「儂は見ておらんのですが、給仕曰く炎のような男で、自らを【闇の王】と名乗ったとか……」  「闇の王!?」  ゼルが勢いよく身を乗り出し、その弾みで机の角で膝を打ち付けた。  ジストが珈琲を飲む手を止め、ゼルを見る。エナもゼルの過剰な反応に訝しげな目を向けた。
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