終章

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 「知ってんの?」  ゼルの顔はどこか紅潮していた。  「知ってるも何も……。狙われたら最後、絶対に助かんねェと言われてる暗殺者だよ!」  興奮して半ば怒鳴るような声で言うゼルに、エナは首を傾げる。それほど名の通っている者だというのに、一度も聞いたことが無い。  「なぁつかしい名前だね。ここ数年は聞かなかったから、エナちゃんが知らないのも無理ないよ」  手をひらひらと振ったジストは上品な音をたてて珈琲カップをソーサーに置いて煙草を取り出した。どうやら余り興味は無いようだ。  「いつか、戦わなきゃならねェ相手だ。刀一本で世界を翻弄してきた伝説の暗殺者……腕がなるぜ」  強い者と見ると無条件に昂揚するのが剣士の性質なのだろう。命知らずもいいところだ。  「へぇ。そんな暗殺者が泥棒に鞍替え? なんで?」  ゼルが知るほど名の知れた暗殺者が泥棒なんて、どう考えてもおかしい。ましてや泥棒に入った先で名乗るなど。本来ならプライドが邪魔して名乗りはしないだろうとエナは思うのだ。  「理由はわからんですが……泥棒とはいえ、盗まれたのは鳩笛のみでしたので、何らかの目的があることは明白かと……」  「おい、ちょっと待てよ」  ゼルが言葉を遮った。  「今、鳩笛って、そう言った気がするんだけど……ジストさんの気のせい?」  「ううん、その通りだけど?」  エナの欲しがっていたものが盗まれた。けれど、この屋敷で盗まれたのは鳩笛たった一つだけ。つまり、エナが欲しがっていたものは鳩笛。その図式が成り立ったことで男二人は愕然とする。  「じゃあ三日前のオシゴトって、全部その鳩笛の為……ってこと?」  項垂れるジストにエナは平然と頷いた。  「笛一つの為にオレを身代わりにしたってかっ!?」  「ま、そゆこと?」
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