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語尾を上げながらも肯定するエナにゼルが殺意を抱いたとしても誰も彼を責められやしないだろう。
ゼルが睨みつける横で、エナは親指と人差し指の第二関節とで顎を挟むようにして考え込んだ。
「でも、そっか。掻っ攫われた後、か……」
それはつまり海賊【影】に忍び込んだ意味が無くなってしまったのと同意語だった。
「……ま、仕方ない、か。考えても始まんないし」
短く嘆息してエナは顔を上げた。
「いいの? エナちゃん。危険冒してでも欲しかったものなんでしょ?」
「そうだ、ンな簡単に諦めちまうってのかよ?」
余りにもあっけらかんとエナが割り切ったものだから、逆にジストやゼルが気遣う声になる。エナはその二人を順に見て、きょとんとした表情で瞬きを繰り返した。
「誰が、諦めるなんて言った? あたし、闇の王、探すよ。あたしが盗むの我慢したってのに横取りなんて許せないし! そうと知ってれば、あたしだって片っ端から盗んでたのにっ!」
エナがその場で地団太を踏むと、うとうとしていたラファエルが不満気に鼻を鳴らしてエナの膝から飛び降りた。
どの道強盗に入られるのならば闇の王で良かったと屋敷の主が思ったかどうかは定かではないが、男は小さく咳払いをして額に浮かぶ汗を拭いた。
「だけど、それはトロルに行った後でいいから、今は考えない。ことにする」
鳩笛だけを狙ったという話だから、自身と暗殺者の目的は同じである可能性が高い。ならば何(イズ)れ会う機会もあろう。焦っても仕方が無い。
「エナ。別にオマエまでトロルに来なくてもいンだぜ? 無理すンなよ」
労わるようなゼルの声音にエナは首を横に振った。
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