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「真、騒がしいな、そなた達は」
背後から聞こえてきた低くて硬い声にエナは満面の笑顔で振り返った。
「シャード!」
そこには、身支度を整えたシャードが立っていた。
首の後ろ辺りで長い黒髪を纏めている。それは何かが吹っ切れた、すっきりした印象を与えていた。
耳にはラピスラズリの一粒ピアス。明るい夜空の色だ。
「何処に居たの? 居ないかと思ったじゃん!」
「遅れておきながらよくそのような事が……」
苦笑しながらも、シャードは遅れたことに対してしっかりと指摘した。やはりというかなんというか、どうやら几帳面な性格らしい。
「時に剣士殿。傷の方はどうだ。化膿してはおらぬか? それから毒の後遺症は……」
シャードはまずゼルに目を向け、その視線をエナへと流した。
「コイツ、次の日にはもうピンピンしてたぜ。どんな治癒力だよ。あ、オレも平気だぜ。そりゃ痛ェけどな」
「ジストさんの愛の力の賜物だよ? ジストさん、もう超頑張っちゃったもんね」
「添い寝しよーとして叩き出されただけじゃねェかよ」
そうだっけ? と嘯(ウソブ)くジストにシャードはほんの少し笑顔をみせた。やはり、とても不器用に。
「あれ? 荷物は?」
エナはシャードの腰あたりを見て、そのあとぐるりと周りを回った。
荷物らしきものが何一つ、見当たらない。
シャードは苦笑のような自嘲のような、なんとも不可思議な顔をした。
「そう、私には何も無い。武器も着替えさえも無い。あるのは僅かに残った金のみだ」
そう言って、シャードは不安そうな表情で三人の顔を見渡した。
「何も持たぬ男だが……それでも構わぬだろうか」
三人は顔を見合わせ、同時に頷いた。
「それが、いいんだよ」
エナの言葉をゼルが継ぐ。
「体さえありゃあ、充分だろ」
「ジストさん的には、別に男に何の期待も無いしー?」
その言葉への喜びを隠すように、シャードは手を自身の首元へとあてて視線を逸らした。口元に浮かぶ笑みが自分でも恥ずかしいのだろう。
「ほら」
エナはシャードに向かって手を差し出した。広げた掌にシャードは困惑の様相を見せ、その手をじっと見つめた。エナは其れを上下に振って見せる。
「握手! これから、一緒に行くんだし」
「!」
手の意味を知ったシャードは更にその手をしばらく見つめた。
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