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「……」
そしてようやくおずおずと動いた手を――掴む手があった。
銀色に鈍く光る義手。それがシャードの手をがっちりと掴み、エナの手へと持っていく。
それにはエナもシャードも、ジストでさえも驚いた。
否、一番驚いていたのはゼル自身だったのかもしれない。
エナと握手をさせ両手で二人の手を包んだゼルは、少しの沈黙の後、歯を見せて笑った。
「よろしくな」
その笑顔と言葉に、シャードの瞳が揺れる。シャードは繋がった手を見つめ、目を細めた。
「……有難う」
くすぐったいような、温かいような、そんな空気が流れる。いつまで続くか知れないその空気を壊したのは船員が乗船を勧める声だった。
「そろそろ出発だよ! まだ乗ってない奴は居るかー?」
船員を見た後、エナはシャードと視線を絡ませた。
そして。
「行こう!」
繋いだままの手を引き、歩き出す。
海に面している町独特の湿気を含んだ風が晴れ晴れとした空に舞う。
「あー! ジストさんだってエナちゃんと手ぇ繋ぎたいー!」
「って、アンタまで荷物押し付けてくなよっ! おいジスト!」
喚くジストとゼルを尻目に船に乗り込む。
「あ。」
エナが声を上げたのは、出航の合図が出され帆船が緩やかに動き出した直後のことだった。
船内に荷物を置きに行こうとしていた面々が立ち止まり、エナを見る。
「エナ? どうしたよ?」
首を傾げるゼルには答えず、エナは口許に笑みを湛え、ほっと息を吐いた。
「ね、見て。シャード」
そして指差す。
「……!」
その指の先を見たシャードが息を呑んだ。
森の影から覗く船先。それはやがて彼にとっては慣れ親しんだ海賊旗を風にはためかせ全貌を現した。
遠目ではあるが船首に団員達が集まり、この船を指差しているのが見える。その中心にはすらりとした体躯の男――ランガード。
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