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「私は……!」
彼は拳を握り締めて俯いた。
おそらく涙を流した時点で、シャードの答えは決まっている。それでも言葉にすることを躊躇う彼にエナは微笑む。
「言ったじゃん。逃げずに選んでって。シャードが逃げずに決めた決断なら、それを止める権利は誰にも、無い」
顔を上げたシャードの赤くなった目には不安と、恐れ。
「だが、もしも、その決断でまた道を誤ってしまったならば……」
再び自身に潜む死神が目覚めてしまったのなら、と。そう思うと怖くて仕方がないのだろう。
エナはシャードの肩をぽんと叩いた。
「あんたには一緒に考える仲間が居るじゃん。あたし達も、居る。シャードはもう、何処に誰と居ても大丈夫」
だから決断を言葉にして、と促すエナにシャードは半眼を伏せた。両手は変わらず拳のまま、肩も強張らせた彼は。
「……すまない……!」
詫びの言葉を一言述べて、彼はランガードと同じように上半身を折った。
「あの者達と生きることを許してくれるだろうか……!」
いちいち真面目な彼にエナはくすくすと笑う。
「まあとにかく、間に合ってくれて良かった」
手で屋根を作り、影団の船を見るエナのその言葉にシャードの肩がぴくりと動く。
上げた顔は怪訝そのもの。
「間に合っ……? そなた、もしや……」
「うん。きっと来ると思ってた。で、あんたがあっち選ぶことも、なんとなく、ね。ま、船が出航した時にはちょっと焦ったけど」
シャードの片腕的存在だと見て取れたランガードの最後の表情。あれは別れを受け入れたものではなかった。執着と葛藤。それは渇望にも似ていて。最終的に選ぶ道は別離では無いだろうと感じたのだ。
そしてそうである以上、シャードはきっと彼らの元へ帰っていくと思っていた。
「でもそれは裏切りじゃない。贖罪を放棄したってことにもなんない。いつだってシャードの道はシャードのもの」
シャードが何故、エナ達と行動を共にしようとしたのか、その理由をエナはなんとなく理解していた。生来、生真面目な彼ならばそう考えるだろうと思った程度の理解であるが。
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