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「うるっっっさいっつーの!!」
長閑(ノドカ)な昼間の風景を揺るがす少女の怒声が、乾いた風に乗って舞い上がった。
拳を震わせながら天を突き抜けるように叫んだ声の主は、すぐさまそのことに後悔を覚える。
道の往来で叫んだことにではない。
大声を出させた元凶。
目の前の男の反応故の後悔。
少女は頭を抱えこんだ。
*
――ことの起こりは、数分前に遡る。
北のエンダル大陸にある自治都市、トルーア。
余り雨が降らない土地柄でありながら、酒場の前にある掲示板は随分と傷んでいた。
其処には、様々な情報を載せた紙が所狭しと貼られている。
この少女、エナも掲示板に紙を貼りに来た内の一人だ。
片手を腰に、もう片方の手を顎にあてて掲示板を眺めるエナの容姿は人々の視線を集めていた。
陽が透けるような淡い黄色の髪は色々な人種が混ざり合うトルーアにおいても珍しく、それだけでも視線を集めるには充分過ぎるというのに、エナの目は片方が青緑でもう一方が花緑青(ハナロクショウ)という色素が近いながらも一目で異なった色であることがわかる双眸をしているのだ。
その容姿に釣られたのか、羽虫が一人。
何処に貼るべきかと思案するエナの肩に手が置かれた。
「見つけた」
掛けられた声は低くて少し甘みがかったもの。
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