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むかつくほど伸びた身長に、むかつくほど長い手足。むかつくほど均整の取れた男らしい体に、むかつくほど、お綺麗な顔。
極めつけは、そのお綺麗な顔に絶妙なバランスで付いている、黒に見紛う柘榴石のような深い深い紅の双眸。
――なんか、無性にむかつく!!
丹精込めて作り上げられた彫刻のような美貌を備えたその男へのエナの感想はまさしくそれであった。
特に、瞳が。
垂れた目尻と意思の強そうな眉。切れ長の二重も文句のつけようがない。だが、吸い込まれそうなほどの深紅に宿る光がエナを苛立たせた。
軽薄そうにへらへらと笑う目の奥にある本当の色に。
エナが感じたのは恐怖、かもしれなかった。
そのとき感じたものを形容する術など知らない。ただ、その容姿を見た途端、彼に対して抱いた憤怒が倍増したのは確かだ。
「へーえ、エナちゃんって言うんだ? かーわいい名前」
「返せ、クソ野郎」
エナは益々渋面して、紙をひったくった。だがしかし、掲示板のど真ん中に画鋲でしっかりと止めるエナに、懲りるということを知らないらしい男は尚も馴れ馴れしく話掛けてくる。
「やー、イイ反応だね、想像通り! ねえね、もーちょっとキミと話したいんだけど、その辺でお茶でも飲まない?」
勿論エナは無視である。
紙さえ貼ってしまえばこんなところに用は無い、とばかりにエナはさっさと歩き出す。
だが、男は諦めなかった。
エナの後ろをぴったりと付いてきたのである。
「やぁだなあ。エナちゃん、照れてるの? そりゃジストさんはカッコイイけど、照れる必要なんて全然無いんだよ? エナちゃんだって充分可愛いんだから」
誰が照れるか、誰が! と怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、ここで反応を返すような真似をすれば、この男は更にしつこく付き纏うのだろう。
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