第一章

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  「懐かしいよね、この場所」  辿り着くなり、藍がそんなことを言った。確かにこの場所は、二人にとってとても思い出深い場所である。 「此処には世話になった。……嫌なことを思い出させるかもしれないけど、藍とも会えた場所だしな」  不安そうに藍を見遣る。そんな風に気遣ってくる彼だが、藍にとっては些細とも思える優しさをとても嬉しく思った。 「あの時、秀介が助けてくれたんだけどね、当時はあんまり嬉しくなかったんだ。後からこみ上げてきて。家の中でにやにやしてた」  彼の不安を払拭するように、藍は笑顔で言った。辛くなかったと言えばうそになる暗い過去も、今では笑い話にできる。そんな強さを、彼女は手に入れていた。 「そっか」  安心したように言うと、彼はそのまま藍の手を引いて旧第三倉庫に足を踏み入れた。
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