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私が、静かな寝息を立てる少女の顔を眺めていると、突然人が訪れた。
誰が来たのかと一瞬驚いたが、その男の顔を見て安堵した私は少女を仕舞い、来訪者である彼の元へ歩み寄った。
最初彼は私を訝っていたが、『この子達の為にも、私たちは頑張らなければいけないのだ』と私が言うと納得し、部屋を出て行った。
彼は、私の理解者なのだ。他にも私を慕う人は多いが、彼は特に私の事を信頼している。
例え私が、普通では無い状況に身を置いていても、『この人にはそれなりの事情があり、思うところがあるのだ』と、勝手に解釈してくれる。
……全く良き後輩だ。加えて、彼自身を慕う人も、また多い。そしてその人望は、彼の師である私の元へと帰結するのだ。
これからの私の為にも、彼の事は贔屓していた方が良いだろう。特別な関係も、これまでと同じように続けてゆこう。
――その全ては、私の大事な少女の為に。私が少女と共にいる為に。
少女の元へは、一日一度訪れた。その都度栄養剤を与え、体を解してやった。
今後少女が自分の意思で歩く事は万が一にも有り得ないが、それでもしなやかな肢体を保つためにはリハビリをしておいた方が良いと思ったのだ。
それから寒さで風邪を引かぬ様に、しばらく付き添って温めてやった。暖房が入れられれば良いのだが、それは叶わぬ願いだった。
周囲の人間は最初、同じ部屋に何度も訪れる私の事を怪しんでいたが、元から私は変わった所があると思われているので、次第に気に留めなくなった様だ。しかし、その代わりに警備を頼まれる事になった。
私の様な人間に兼任をさせるとは俄かには信じがたい事だが、私としては願ったり叶ったりだった。今までは職員の見回りを警戒する手間があったが、職員さえ抱きこんでしまえば後がずっと楽になるのだから。
――ふと、思った。私は、ここまで利己的な人間だったろうか?
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