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……でも、痛みがないのは、私の神経が可笑しくなった訳でも、何も感じなくなった訳でもなかったと気付いたのは…。
「落ち着け」
ナイフを振り下ろした瞬間に赤が散った次に私に訪れたのは、温もりだった。
何も感じなくなったと思った私は、ちゃんとその温もりを認識出来ている。
胸に押し込まれた顔に何かが上から伝ってくる。ゆっくりと切り付けたはずの左手首を持ち上げて視界に映すと、傷一つなく無事で…伝ってくるそれを指で触れた。
…赤だった。
赤い、赤い血だった。
何を、切ったのだろう…か。
何を…、
「大丈夫か」
頭上から落ちてくるのはキョウさんの低く、優しい声と血。
キョウさんの声と……。
顔を上げた時に、見えたキョウさんの綺麗な顔から真紅の血が…右目付近から鼻にかけて切られた傷から流れて、私の頬へ伝う。
次第に震え始めた身体をキョウさんは逞しいその腕で抱きしめてくれた。
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