古びた時計は重く針を動かす

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何度も通った夕夏の部屋に案内される。   六畳くらいの広さで、入った左側には、ペッタンコになった万年床の布団、中央には机。  机の上にはメイク道具が散乱している。 右側には大量のぬいぐるみ。夕夏の趣味で、UFOキャッチャーで取ったものだ。 部屋に入るとカナタの心に急に安堵感が生まれた。 『夕夏…もう耐えられないよぉ』 『オヤジの暴力のことか?ところで母ちゃんは、大丈夫だったか?』 『母さんのことは、どうでもいいの、あたしは、いらない子だったんだってさ…』 言葉にするのも辛い。  …いらない子…  そう、あたしはいらない子。   カナタの中で、いらない子と呪文のように繰り返され、頭の中に充満していく。 言葉が頭の中を駆け巡り、涙に変わる。 無言になったカナタに夕夏が話し掛けようとした瞬間、カナタの目に涙が浮かんだ。  うつむいて表情もなく涙を流すカナタを見て、夕夏は今までと違うと気付く。  夕夏は、何と話し掛けて良いか分からず、そっと近くに寄り、カナタの頭を自分の肩に引き寄せる。 『もう、ええよ。今は何にも考えんとゆっくり休みな』 『………』 頭をぽんぽんと優しく撫でる。  暫くすると、カナタは夕夏の肩で静かに寝ていた。 『ごめんな、うちが出来ることはこれくらいしかないけど…。あんたの力になりたいんよ。あんたが笑顔になれるように、うち頑張るからなっ』  返事の返ってこないことは分かっていたが、カナタに語り続ける。 辺りは、夕暮れに景色を変える。 夕日が暖かくふたりを包み込んでいた。
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