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今、この気持ちを伝えたかった。
この気持ちを彼女に伝えなければと強く思った。
『どしたん?急に…』
『ううん、別に。言いたかっただけ。気にしないで』
不思議そうに見つめる彼女を心配させないように、はぐらかす。
夜になり、暖かい部屋にご飯が炊ける良い匂いが広がっている。
カナタの楽しみは、ご飯をいっぱい食べること。たくさん寝ること。そして、夕夏に会うこと。
それが人生の楽しみだった、生きる支えになっていた。
―家族の愛情は、なかった―
『はい、どうぞ。カナタちゃんごはんだけでいいの?あら、そう?じゃあ、大盛りにしといたわよ』
ゴトンッと重みのある音を立てて、ご飯茶碗がゆっくりと置かれる。
『はいっ。私、白いごはんが大好きなんです。ごはんだけあれば充分です』
おかずにも目を向けずに、夕夏の母親に差し出された大盛りのご飯を満面の笑顔で食べ始める。
『カナタさぁ~、何杯目なん?ごはんばっかぁ』
『んふふ、3杯目だよん』
夕夏にやや呆れられながらも、カナタは幸せそうだった。
一瞬の幸せを精一杯、噛み締めていた。
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