古びた時計は重く針を動かす

2/21
前へ
/365ページ
次へ
『あんたってば、またあの女の所に行ってきたんだろ?』 『お前には関係ねぇ~だろが。何か文句あんのかよ、てめぇ』  父親が振りかざそうと右腕を上げる。 古びた団地の一角で繰り広げれらる光景。 その光景を目の前にしているのは、二人の娘である・相川カナタ。 『もう、止めてよ。お母さんもお父さんも…』 一瞬の静寂の後に、父親はカナタに掴み掛かってきた。 『お前も俺に文句があるんかぁ?!誰の稼ぎで飯食えると思ってるんだぁ~、ぁあ~ん?』 父親は、カナタを壁に叩き付けて、髪をぐしゃぐしゃにする。さらに後頭部を強く叩き付けた。 ―ガン、ガン、ガン― 気が遠くなる。いつからこんなことになってしまったんだろう…記憶が薄らぐ中で、そんなことを考えていた。 口から一筋の血が垂れる。 『と……とう…父さん、もうぅ…止めて…ぇ』 力が入らない口を精一杯動かして、弱々しく声を発した。 父親は、ため息を漏らして、しょうがなそうにカナタの髪を離した。 壁をゆっくりとずり落ちる。 『お前がきちんとこいつの面倒見ねぇ~から、態度がでかくなるんだよ。ちゃんとしろよな』 母親のお腹を蹴り上げる父親。 『うぅ゛~う』 痛々しい声を発し、うずくまっていた。 ―バタンッ― 強く閉められたドアは、静けさと寂しさをもたらした。 父親は、また家を出ていった。 母親は、ゆっくりと重い体を起こして、立ち上がる。 母親はこちらをちらりと見ると、小さく呟いた。 『あんたのせいで、また蹴られたじゃない。何であたしばっかり…。だから、あんたなんか産みたくなかったんだよ』 『………?!』 初めて聞いた、あたしを産みたくなかったなんて知らなかった。 ―ショックだった― あたしは母さんを守りたかっただけなのに…大好きだったのに、なんで?  壁に寄りかかりながら放心状態、手足は投げ出して、声もなく涙が頬をつたった。
/365ページ

最初のコメントを投稿しよう!

936人が本棚に入れています
本棚に追加