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『あんたってば、またあの女の所に行ってきたんだろ?』
『お前には関係ねぇ~だろが。何か文句あんのかよ、てめぇ』
父親が振りかざそうと右腕を上げる。
古びた団地の一角で繰り広げれらる光景。
その光景を目の前にしているのは、二人の娘である・相川カナタ。
『もう、止めてよ。お母さんもお父さんも…』
一瞬の静寂の後に、父親はカナタに掴み掛かってきた。
『お前も俺に文句があるんかぁ?!誰の稼ぎで飯食えると思ってるんだぁ~、ぁあ~ん?』
父親は、カナタを壁に叩き付けて、髪をぐしゃぐしゃにする。さらに後頭部を強く叩き付けた。
―ガン、ガン、ガン―
気が遠くなる。いつからこんなことになってしまったんだろう…記憶が薄らぐ中で、そんなことを考えていた。
口から一筋の血が垂れる。
『と……とう…父さん、もうぅ…止めて…ぇ』
力が入らない口を精一杯動かして、弱々しく声を発した。
父親は、ため息を漏らして、しょうがなそうにカナタの髪を離した。
壁をゆっくりとずり落ちる。
『お前がきちんとこいつの面倒見ねぇ~から、態度がでかくなるんだよ。ちゃんとしろよな』
母親のお腹を蹴り上げる父親。
『うぅ゛~う』
痛々しい声を発し、うずくまっていた。
―バタンッ―
強く閉められたドアは、静けさと寂しさをもたらした。
父親は、また家を出ていった。
母親は、ゆっくりと重い体を起こして、立ち上がる。
母親はこちらをちらりと見ると、小さく呟いた。
『あんたのせいで、また蹴られたじゃない。何であたしばっかり…。だから、あんたなんか産みたくなかったんだよ』
『………?!』
初めて聞いた、あたしを産みたくなかったなんて知らなかった。
―ショックだった―
あたしは母さんを守りたかっただけなのに…大好きだったのに、なんで?
壁に寄りかかりながら放心状態、手足は投げ出して、声もなく涙が頬をつたった。
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