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ロンドンのお洒落なカフェに立ち寄った。
少しだけふたりの休める時間を下さいと願ってしまったことを亜紀は、今でも後悔していた。
店内に入り、久し振りに亜紀と卓也は笑顔を見せた。
店内に流れる軽快なBGMに、和やかな雰囲気。
心が温まり、安心感に包まれる。
ふと卓也が外を見ると、黒塗りの乗用車が二台立て続けに停まった。
ガタッと席を立った卓也は、亜紀の手を取り慌ててカフェの厨房から裏口に向かう。
世界の色があっという間に変わって行った。
私達の世界に幸せな感覚が急激に失われる。
不安や恐怖で脳内が爆発しそうで、吐き気さえ覚える。
裏口に出ると、細い路地に繋がっており、兎に角先へ進むしかなかった。
暫く走って行くと、そこは行き止まり。
背後から聞こえてくる複数の足音が、だんだん大きくなってくる。
そして、六人の黒服にサングラスを掛けたマフィアの人間だろうか、姿を現した。
手には、拳銃が握られていた。
震える亜紀の手をギュッと握り、卓也は亜紀をかばうかのように一歩前に出て英語でマフィア達に話し掛け、叫んでいた。
マフィア達がニヤリと笑い、銃口が亜紀と卓也に向けられる。
死を覚悟した。
そこからの記憶には音が無くなり、血塗れになった卓也の姿があった。
こと切れる寸前の卓也が、血塗れになった手をそっと亜紀の頬にやり、耳元で小さく些細く。
『だ…大丈夫だ、よ。亜紀は僕のものだ。僕だけのものなら、き……みはもう思い出さない。永遠にあのことは守られるよ』
『卓也!?しっかりしてよ、卓也。私を置いてかないでよ、死なないで!!』
『ワード…があ、る、か、ら、…大丈夫だから』
そう言い残して、卓也は亜紀の腕の中で亡くなった。
亜紀は、そのまま卓也の亡骸と引き剥がされて、日本に連れ戻された。
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