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その人に会ったのは、駅から5分程歩いた時だった。
早足で歩く私を、一人の女性が呼び止める。
「あっあの、すみません。駅ってどこですか?
私っその…方向音痴で、今、何処に居るのかわ、かんなくなっちゃって……」
歳は二十歳後半辺りだろうか。
懇願して来るその人の顔は、今にも泣きそうだった。
良い大人が情けない……。
そう思いながらも、放っておくのは気の毒なので、駅まで案内した。
「…そこの階段を上れば、見えますから。
此処まで来れば大丈夫ですね?」
「はいっ!ありがとうございます。助かりました。」
女性はニコニコと嬉しそうに笑いながら頭を下げて来る。
案内しただけでそんなに喜ばれてもな……。
とりあえず、これ以上関わりたく無かった私は、「では、私はこれで。」と言って、その場を離れようとした。
が、女性が慌てて私の腕を掴む。
「あっ、ちょっと待って下さい!」
「…(面倒だ。)まだ何か?」
「あの、お礼と言ってはなんですが…。
良かったらこれ、貰ってくれませんか?」
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