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そう言うと、担任は目の前に広げていたファイルを閉じて禅を真っすぐ見つめて言った。
「だがな、神谷、日頃の授業態度は改めろ」
「……勉強、あんま関係ないと思うけど」
禅の率直な意見に、担任はゆっくり首を振る。
「お前が進学しないのはいい。
勉強も必要ないと思うだろう。
でもな、お前の周りには進学しようと考える者がいるんだ。
その者たちにとって、勉強もまるでしないでやりたいことだけやっている者は目に毒だ。
お前にその気がなくても、誘惑になるんだ。
お前が仲のいい渡利にとってもな」
その言葉に、禅は眉間にしわを寄せて唸る。
担任の言い分は分かる。
あいつがやってるから自分も少しくらいは。
そういった誘惑に人間は極めて弱い。
誘惑に負けるのは自業自得と言えるし、正直話したこともない同級生を気遣うような心配りを、生憎禅は持ち合わせていない。
だが、翔は別だ。
正直、翔の成績と志望校の偏差値はまるで合わない。
一心不乱に勉強し、さらに勉強したその全てを100%身につけてもどうにかなるか分からないほどだ。
そんな翔に余計な時間など、誘惑されている暇などない。
「……分かった。
最低限、学生の義務の範囲の勉強はする」
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