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禅は目を閉じて一つ深呼吸をしてから、ゆっくり目を開いてピアノを演奏し始めた。
禅の手は夕焼けに溶けるような優しい旋律を音楽室に響かせた。
そして口から詩を紡いだ。
禅の歌は、『片思いの少年が手の届かない憧れの女性への想いを募らせていく』という詩だった。
(世界に存在するのは自分とピアノだけ)
禅はそう感じながらそれ以外の全てが消えてしまったように思うほど集中していた。
歌い終えると禅は目を閉じて一つため息をついた。
「……俺も未練がましいな」
そう呟いて自嘲の笑いを零した。
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