不覚

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その様子に驚いた表情を浮かべる沙希を見て、禅は舌打ちをして言った。 「……もうやめたんだよ、音楽は。だから……、今はもうやってない」 そう言って禅は音楽室を出ていった。 しばらく立ち尽くしていた沙希は、呆然と禅の出ていったドアを見て呟いた。 「やめたって……なんで?」 沙希はその場から動けず、禅の座っていたようにピアノの前に座った。 「……歌ってる時、禅笑ってたのに。……歌が好きじゃなきゃ、あんな無邪気な顔できないよ」 そう呟いて沙希は人差し指で一度だけ鍵盤を押した。 その音は 夕焼けに染まる音楽室に響き、 まるで幻のように消えていった。 静寂の世界には 沙希1人が残されていた。
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