隣人

24/25
前へ
/595ページ
次へ
今まで禅は自分から沙希のことを尋ねたことはない。 沙希の親のことも、沙希が禅のアパートに転がり込んできたから知った。 それ以外、沙希の過去や悩みを聞いたことはなかった。 聞いていたとしても歌のことだけ。 「……たしかに、そうかもしれない」 禅がそう小さく呟くと、沙希は目を閉じて言った。 「別にわたしのことを聞けってことじゃないよ? でも心に響く歌は、人の心を知らないと作れない。 ……でも、今の禅は人の心を知ろうともしてない。 だから、禅は歌を作れなくないんだよ」 沙希の言葉に、禅はうなだれるように俯いた。
/595ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5105人が本棚に入れています
本棚に追加