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インターホンを鳴らすと、すぐに母が出た。
『はい……?』
禅はその声に舌打ちをすると、不機嫌なのを隠そうともせず一言だけ告げた。
「……禅だ」
するとすぐに扉が開き、母が顔を出した。
「禅……お帰りなさい」
母は力なく笑ってそう言ったが、禅はそれを無視して母の横を無言で通り抜けた。
すれ違いざまに母が声をかけてこようとしたのに気付いたが、それも無視してリビングに入っていった。
家の中も何も変わらない。
3人がけのソファーと、それに直角に並ぶ2人がけのソファーの配置。
壁際に置かれたテレビ、その横に置かれた本だな。
部屋の片隅に置かれた観葉植物。
何もかもが、禅がこの家を出ていった時のままだった。
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