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財布も携帯も持っていなかったが、上着の胸ポケットにはタバコが入っていた。
禅は一つため息をついて、自分を落ち着けさせるように胸いっぱいにタバコを吸い込む。
そして、背もたれに体を預け、意味もなく空を見上げた。
「……空が高いな。
もう秋なんだな」
そう呟いて、タバコを口に運び、目を閉じながら煙をはいた。
「……帰ったら捨てるか」
「何を捨てるの?タバコ?
だったら今捨てなよ」
一気にまくし立てる元気な声が聞こえた。
禅は顔をしかめて目を開くと、そこには想像通り沙希の姿があった。
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