=新撰組へ=

10/14
前へ
/64ページ
次へ
「あの…」 先程の物音がしてから数秒間、一切物音がしなくなってしまった。 だが、本当にやる事も無いため、ひたすら壁に話しかけるという、ある意味怪しい行為を繰り返している。 「…っ、!」 不意に、首筋に冷たい感覚が走り、それが全身へと駆け巡る。 気がつくと雪斗の首を、刃物が狙っていた。 「…あんた、何者や」 「あ、あの…怪しい物じゃ、ないです」 自分の後ろから訛りのある声がし、問いには素直に言葉を返した。 …いや、寧ろそうするしか、雪斗に道はないのだ。 「わいの存在に気付くなんて、ただ者やないやろ。普通は気付かへんで」 「…お、俺…記憶が、なくて。だから、解んないんですけど、人の気配が…なんとなくしただけ、です」 途切れ途切れになりながらも、雪斗はしっかりと後ろの人物に言葉を返す。 振り向く事も叶わない状態なので、相手の顔さえ解らない。 解るのは、ただ者じゃないって事。 それだけを、肌が何と無く感じ取っていた。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

219人が本棚に入れています
本棚に追加