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「あの…」
先程の物音がしてから数秒間、一切物音がしなくなってしまった。
だが、本当にやる事も無いため、ひたすら壁に話しかけるという、ある意味怪しい行為を繰り返している。
「…っ、!」
不意に、首筋に冷たい感覚が走り、それが全身へと駆け巡る。
気がつくと雪斗の首を、刃物が狙っていた。
「…あんた、何者や」
「あ、あの…怪しい物じゃ、ないです」
自分の後ろから訛りのある声がし、問いには素直に言葉を返した。
…いや、寧ろそうするしか、雪斗に道はないのだ。
「わいの存在に気付くなんて、ただ者やないやろ。普通は気付かへんで」
「…お、俺…記憶が、なくて。だから、解んないんですけど、人の気配が…なんとなくしただけ、です」
途切れ途切れになりながらも、雪斗はしっかりと後ろの人物に言葉を返す。
振り向く事も叶わない状態なので、相手の顔さえ解らない。
解るのは、ただ者じゃないって事。
それだけを、肌が何と無く感じ取っていた。
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