出会い

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 彼女とその夫の食事は、リタの水汲みと同時に始まる。  これから陽が落ちるまでに、水を汲み、家畜の世話をして、洗濯と掃除を終わらせるのがリタの仕事だ。  もし全てに失敗がなければ、夕飯のスープの具が少しだけ増える。  それがささやかな楽しみだった。  ただリタがこの家に預けられて6年間、そんなことは一度もなかったけれど。    追われるように家を出たリタは、水を汲むための桶を引っ掴んで井戸へ走った。  この辺りは水源が豊富なので、だいたいどの家にも専用の井戸がある。  井戸は深く、覗き込んでも底が見えない。  ここに落ちたらまず助からないだろうことは、幼いリタにも理解できた、  汲んだ水を桶に移すと、零さないよう慎重に持ち上げる。  小柄なリタにとって、ぎりぎりまで水の入った桶はとても重い。  地面に置いて引きずるのは桶が汚れてしまうから、上半身を反って桶を持ち上げ、覚束ない足取りで歩きだす。
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