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「おぇ、こたろー。少ししか無いんだからいっぺんに洗えよなァ。水、勿体無いべ? お前洗うだけだから良いかもしんねーですけど、水道代払うの俺だぞ俺」
「……まさかとは思うが銀時、そのシャツも『いっぺんに』洗った結果か?」
「おん?」
「…………その薄い緑色のシャツは、買った時は白かったのか?」
「ああ、生きることは自分の色というシガラミを背負うことだ」
「威張るな馬鹿者! 色物くらい分けて洗え!」
ついでにお前は金払うだけだが、炊事洗濯掃除その他諸々、生きていくのに日常必要な家事をやっているのは俺だ。
一息に付け足し、小太郎は銀時の頭を殴った。
幼馴染という気安さから互いの言動に遠慮はないが、一応二人は教師とその教え子という関係にある。
学校ではそれを意識的に意識しているつもりだが、如何せん銀時の滅茶苦茶にずっとハラハラさせられてきた小太郎は、彼が何かしでかす度ついそれを忘れてしまいがちだ。
銀時の方はと言えば、教師以前に幼馴染という関係があるのだから、少しくらい優しい素振りを見せてくれてもと小太郎は思うが、学校での銀時は実にツレない。
いや、銀時など掴みどころがなくて、ツレるんだかツレないんだか普段から分からないようなものなのだが。
自覚してから数えても三年越しの恋心を、小太郎はこの六つも年上の幼馴染に抱いていた。子供の頃は可愛い憧れだった気持ちも、今ではすっかり形を変え、明確な情欲すら孕んでいる。
「こた?」
「ん……とにかく、お前は風呂に入る用意をして来い。どうせまたテレビの前から離れられなくなるんだから」
「俺はお前の子供か」
「ついでにそのシャツも脱いでいけよ」
へっ、と可愛げなく口元を歪ませながら脱衣場から出て行く銀時を、その視線の熱量に気付かれぬよう気を張って見送った。
気付かれてはならぬと思う。銀時は、きっとするりと逃げていってしまうから。
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