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「さきー!!
台所手伝ってー!!」
そこに母親の間延びした声がした。
「はーい」
ゴロゴロとしていた少女はよっと、と軽く勢いを付けてベッドから降りた。
その際ポケットに携帯を突っ込むことを忘れない。
さき、と呼ばれた少女。
名前は深沢 沙希。
今年高校に上がったばかりだ。
トントンと階段を下っていくと、下のキッチンでは母親が忙しそうに動き回っていた。
「悪いけどお野菜洗ってくれる?サラダに使うから」
娘が降りてきたと気づくと柔らかい口調で母親がそう指示をする。
「りょうかーい」
バシャバシャと水を流す音がキッチンに流れる。
隣で鍋をかき混ぜている母親が鼻歌混じりに雪に話しかけた。
「雪ももう高校生だものねー。
彼氏とかは出来た?」
「残念ながらおりませんし聞かないでください」
独り身の沙希にその質問はナイフのような効力を発揮し思わず口調が敬語になる。
周りがどんどんリア充になっていくが沙希にはそんな兆しは欠片もない。
まぁそれは昔の憧れに重きを置きすぎている沙希自身にも問題があるのだが……。
「沙希はのんびりやさんだからね~。
あなたのペースでいけばいいはよ~」
母からの助言はなんとも頼りないというか抽象的でどうしようもなかった。
「……そうだね」
というかこれ以上ない程にのんびり屋かつマイペースな母に言われたくないが、つっこみを入れるには少々骨が折れる相手なので素直に頷いておいた。
この母は歳の割りに随分若く見え、ふわふわとした雰囲気通りにマイペースで人の話を聞かない。
「? あらあら?
ドレッシングが無いわね」
そして唐突に話を変える。
「買ってこようか?」
「お願いしてもいい?
イタリアンドレッシングね」
母は一旦鍋の火を弱火にして財布から千円札を取り出すと左記に手渡した。
「了解。
じゃあ行ってきまーす」
「寄り道しちゃだめよー」
お金を受け取ってパタパタと玄関に向かう沙希の背中にそんな声がかかる。
沙希はそれに気の無い返事を返し家を出た。
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