落ちてる物は拾わないように

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「あのね、藤ノ宮財閥って知ってる?」  勿論だ。日本のトップグループには位置する超有名財閥だ。 「それで、私の名字は藤ノ宮――――」  やはり。と、俺は思った。初めて聞いた時から予感はしていた。藤ノ宮なんていう名字はそうそうないからな。 「私は藤ノ宮家の一人っ子。…………藤ノ宮財閥の唯一の跡取りなのよ」  重苦しい言葉が桃香の口から吐き出される。  それならば家出してきた理由も予想はつく。 「…………驚かないの?」 「だいたい予想してたからな」 「そう。…………涼弥も予想できると思うけど、お金持ちの跡取りなんてだいたいやることが決まってるのよね。英才教育、商売の基本、同じような金持ち共が集まるパーティーに、それに媚びを売る人々。そんなやつらに挨拶に回る私。決められたレール。籠の中の鳥」  そこまで喋ったところで一息つく桃香。  静かに、まるでそんなことはないのに自分の罪を告白するように話す桃香。  そこには昼間の天真爛漫な姿はなかった。  だが―――― 「それだけじゃないだろ。胸の中にあるのは。全部吐き出しちまえよ。全部受け止めてやるから」  そう。それだけじゃないはずだ。桃香も言ったとおり、どこの金持ちの子も言い方は悪いが境遇は似たようなもんだ。それだけで家出していたら世界中の金持ちの親は身の代金をとられ放題だ。 「私ね、学校っていうのに憧れてるの」 「なに言ってんだ。学校ぐらい行ったこと、」 「私ね、学校って行ったことないんだよ」 「――――ッ!?」
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