落ちてる物は拾わないように

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 お見合い――――それは結婚を前提としてお付き合いをする際に開かれる男女の会。 「父は私が十六歳になったらすぐにでも結婚させようとしていた。そのための相手はもう決まっていた。十歳も年の離れている有名会社の次男坊。当然、相手の会社は父よりも上。つまりそういうことなのよ。父は会社同士を合併させ利益を得ようとしたの。この私をつかってまでね!父は言った。この人に会社を継がせると。それが結婚の条件だと。結局私はその程度の存在だった。私の十六年間は全て無駄になった。頭じゃ分かってるの。十歳も年の離れた知らない人に、今日から君が僕の妻だと言われ、わけもわからないまま一緒に住むことになり、あろうことか男女の契りさえも会ったその日に結ぼうとしてきて――――頭では分かってた!昔の人だってやっていたし、これが会社の為になるのは分かってた。でもそんなの納得できなかった!私の人生は、十六年間はこんな人に捧げる為にあったんではないって言ってほしかった!これじゃあ私の人生じゃない!………………そう思った時、私は知らずに家を飛び出していたのよ」  沈黙が場を支配する。  桃花はすでに乱した息も整えていたが、顔を俯かせて小さく震えている。  正直俺には実感がわかなかった。俺は金持ちでもないし、お坊ちゃん育ちではない。十六でお見合いなど来る予想すら立てられない。  だが、人生が自分の思い通りにならないことは知っていた。いつだって不条理に流されるのは弱いものということも。  だから俺は俯いている桃花の頭にそっと手を乗せ、 「お前の人生がどういうのか知らないけどな、お前の帰る場所がないんだったら、作ってやるよ。今からここがお前の帰る場所だ」  居場所を与えてやった。かつて俺がされたように。そういう人を見逃さないように。 「……………………ははっ。くさすぎるよ、涼弥」  ようやく彼女は顔を上げ笑ってくれた。 「はっ、馬鹿にすんなよ。これは俺が救われた文句の一つだ」 「なにそれー」  ははっ、と。まだ無理しているような桃花にも微かに笑いが戻る。  今はこれでいいのだ。  これが俺のできる全て。あの人との約束だ。
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