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「ありがとうございましたー。またお越しください」
俺は後ろ髪を引かれる思いで、駅前の某牛丼屋を後にする。
時刻は四時半。学校帰りに、あまりの空腹についつい財布の中身を確認せず立ち寄ってしまった某牛丼屋。
席に座ってさあ何を食べようかな、と思って財布を開いたら金がなかったと。
いや、あるにはあのだ、野口さん一枚が。しかしこれはこれからの食生活の生命ライン。
独り身の俺は今月の後十日間をこの野口さんだけで生きていかなければいけない。
ということでレジうちのお姉さんの笑えない顔にびくびくしながら、何も食わずに外に出てしまった。
当分、あそこには近づけまい。
ていうかせこい。駅前であんなに牛丼の匂いを周りに放出させていたらそりゃ財布の中身を確認しないで入ってしまう。
そんなことを考えながら次の目的地に向かう。まあ、こっちが本命だが。
しばらく歩くと十字路の角に一際目立つ、ちょっと古ぼけたスーパーが見えてくる。
庶民の味方、山吹商店である。昔からあるちょっとしたスーパーで、特徴はなんといっても安い。取れたての野菜だろうと新鮮な青魚だろうと、安い。
世の中が不況で値上げをしているなか、昔ながらのお値段で提供してくれるこの店に、お得意様(近所の主婦)は多い。
かく言う俺もそんなお得意様の一人だ。いや別に主婦とかじゃなくて、健全な高校生ですけどね。
そんないつもと変わらない風景の中、いつもと変わる風景が一つ。
「うおっ、なんだあれ?」
いつもと変わらない夕方時。山吹商店の前は夕飯を買いにくる主婦でごった返しになっている。
そんな山吹商店の比較的簡素な入り口の前のベンチに女の子が一人――――寝ていた。
「マナーが悪いっていうか、はしたないというか、そんなに疲れてたんか?」
近くによって見てみると、顔は――――うん、美少女だ。逆に大丈夫か?と思うほどに。
今は悪いおじさんがたくさんいるご時世。帰りにまだいたら起こしてやるか。
と、思いながらも今はタイムセールの食材が優先なわけで、少々薄情ながらも俺はスーパーの入り口に向かっていった。
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