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☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「カレー!カレー!カレー!ねー涼弥カレーまだなの?」
「うるっさいな本当に。カレーだってそんなに早く出来る訳ないだろ。ちょっとは大人しく待ってなさい」
「だってもうお腹空きすぎて、お腹と背中がくっついちゃう勢いなんだもん。どうしてくれんのよ」
「どうにも出来ねえよ」
「役立たずー。カレー!カレー!カレー!」
拾ってきた美少女は公害レベルで喧しい。
カレーを作ってるのは俺。材料を買ったのも俺。文句を言うのは桃香。これじゃ救われないぜ。
「腹へってんのはこっちだって一緒だ。ったく、少しは静かにしてくれないとカレーやんねえぞ」
「カレー!カレー!カ――っ!?……………………」
ふう、ようやく収まってくれ――――
「ねー涼弥、カレーまだー?」
――――るはずないよね。分かってたよ。分かってたけど、ほら、ね、言ってみただけですよ。そこに僅かな希望を信じて。
「しょうがねえなぁ、まったく。ほらよ」
あまりの喧しさに俺はとっくに出来上がってたカレーを、鍋ごと厚手の布を引いたテーブルに移す。
「なによっ!もう出来てるじゃないの。おかしいと思ったんだよねー。あんなにカレーの匂いを漂わせときながら、完成してないなんて、生き地獄か!って感じだったのよ」
「うるせえうるせえ。俺はカレーはじっくり煮込む派なんだよ。それだけは腹が減ってても譲れなかったのに。本当ならまだ全然早いぐら――」
「うるさい!」
ひゅっ!と桃花のスプーンがカレーに伸びる。しかし俺はその一瞬を見逃さず桃花のカレー皿を引く。結果、カツっという音を立て、桃花のスプーンはテーブルを叩いた。
「行儀の悪い子にはカレーはあげません」
「むー」
俺の言葉にふくれっ面で対応する桃花。ツボですね、分かります。
桃花は一度手を合わせて「いただきます」と言ってから、今度は行儀よく食べ始めた。
本当に生き地獄だったのか、この世の果てから生還したようにカレーを食べる。本当に、幸せそうに、
「おかわり!」
「はやっ!つうか俺の分は!?」
「そんなの早いもん勝ちに決まってるでしょ!」
桃香は俺が貸してやったカレー皿に、残りの炊飯器の中身を全部詰め込むかと思う勢いで盛っていく。
「ふざけんなてめえ。この家の主が誰だか教えてやるよ!」
そうして俺はやっとスプーンを握るのであった。
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