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─*─
その後、兎月さんの、少し… いや、かなり強引な説得に促され 結局 手元にあったボロボロの朱い「ノルウェイの森」 を彼に渡してしまった。
この手に存在しているという事実だけで、あれだけ動揺ていたのに 実際に手元から離れてしまうと、彼との繋がりが断ち切れてしまったようで 何だか寂しく感じた
しかし、すぐに込み上げる後ろめたさ
あぁ、私は どこまで自分勝手なんだろう
そんな自己嫌悪に落ちていると
良かったらコレ、使って下さい。
そう言って、ハンカチが目の前に差し出された
どうして?
自分が泣いている事にも気付かず、そう思った瞬間 その疑問は吹っ飛んだ
コレ───
何故なら、差し出された ソレは、さっき私が買って渡した筈のハンカチだったから
受け取る事も出来ずハンカチを見つめてると
新品なんで 水弾くかもしれませんが
なんて、兎月さんは真面目な顔して言うもんだから、たまらず笑いを堪えられなくなっていた
何とも可笑しい状態だ
可笑しいと言うより奇妙と言った方が正解か
私は泣いていた
笑いながら泣いていたから
暖かい何かが胸の中で広がっていくのを感じた
…大丈夫です。
私には このハンカチがありますから
差し出されたハンカチではなく、自分の鞄から 今朝 兎月さんに借りたハンカチを取り出し笑って そう答えた
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